ワイズ・アフター・ザ・イベント/アンソニー・フィリップス
Wise After the Event / Anthony Phillips

はっきり云ってこの頃のアンソニー・フィリップスの歌はめちゃくちゃ下手です。ギターも決して上手くありません。この後延々と続いてゆく『プライベート&ピーシーズ』のシリーズと違いこのアルバムは一般的なアルバムのように歌が入っているしバンドアンサンブルで作成されています(プライベート~シリーズはアコギをメインにしたインストアルバムと思っていただいて結構です)。
これも想像ですがアンソニー・フィリップスはこのアルバムを作ったときに自分の歌の限界とBGM的なアルバム良さ(と言うか自分のミュージシャンとしての本質はこの方向で良いじゃないかという悟り)に気づいたのではないでしょうか。
個人的にはこのアルバムは中学/高校時代に中間試験や期末試験が終わった後に一人ほっとする時間に聞いていました。今でもこのレコードを聴くと当時の『ほっとした時間』がよみがえってくる僕にとっては貴重な一枚です。
しかし、そういった特殊な聴き方をしない一般の方が初めて聴くと『なんだこれ?』で終わってしまうのかもしれません。ジェネシスのコアなファン以外には。
アルバム全体のボーカルには(下手なのを誤魔化す為でしょうか)フェイザーみたいなエフェクターが嫌というほどかかっていて、ギター音にまでかかっています。
ギターのピッキングは比較的弱々しく曲調の盛り上がりは作っているのでしょうがメリハリがほとんどありません。しかしそれゆえにこのアルバムは全体を通して白昼夢を見ているような淡い浮遊感があり、聴けば聴くほど現実感が無くなってゆきます。
数箇所に顔をだすメル・コリンズのサックス等の管楽器音がまるで朝霧の中を漂うボートに白いドレスを着た女性が乗っているような(上手く表現できないな)儚い美しさを見せます。
ピータークロスによる歌詞の世界を忠実に再現したジャケットの絵も秀逸です。思わず歌詞を見たくなりますね。